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医者の真似をして商売をした渋沢栄一

渋沢栄一は14歳ごろから、父の家業を手伝うようになりました。しかし、栄一が進んで「やりたい!」と言った訳ではなく、栄一が読書三昧で、家業に興味を持たなくなると心配した父が、半ば無理矢理、栄一に家業を手伝わせたのです。

当時14歳で読書好きの栄一は、父の言うことには従うしか選択肢がなかったのですが、そこで商売人としての頭角を現すことになりました。

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渋沢家の家業

当時の渋沢家の家業は、父・渋沢美雅(市郎右衛門元助)が藍玉の製造と販売で大きな成功をおさめ、その他、養蚕・畑作・荒物(箒やちりとりなどの大きな雑貨)にも手を広げていました。いわゆる多角経営です。

渋沢家の藍玉製造・販売についてはこちらをご覧下さい。

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多角経営を行っていた渋沢家。栄一は田畑を耕し、種をまき、草刈りをし、下肥担ぎを行うなど、百姓としての一歩をスタートしました。ですが、渋沢家はただの農家ではありませんので、もちろん、栄一も商売に駆り出されています。

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医者の真似をして商売をする

藍葉の買い入れ

藍玉の製造・販売を行っていた渋沢家は、藍玉の原料となる藍葉の生産をあまり行っていませんでした。藍葉の製造にはとても労力がいるため、渋沢家で全てをまかなうことは出来ず、藍葉の生産をしている農家から買い入れていました。

栄一が14歳の時、その年の一番藍が不作でした。幸い、二番藍は上作でしたので、渋沢家も買いに行きます。しかし、ちょうどその時期、父・美雅は信州や上州の紺屋に出向いて用向きを聞いてまわる時期でしたので、父・美雅は藍葉の買い入れに行くことが出来ませんでした。美雅の藍葉を見る目は、比類なき鑑定眼と言われる程の目利きの持ち主でしたので、渋沢家にとっては痛いところ。とは言え、いくら藍玉を作っても、顧客である紺屋に行って、注文を取って来なければ、在庫を抱えるだけなので、父・美雅は信州・上州に出向き、藍葉の買い入れは栄一の祖父・只右衛門に任せて、栄一はその付き添いで藍葉の買い入れに行くことになりました。

医者の真似をして買い入れる

祖父と一緒に藍葉の買い入れに行くことになった栄一ですが、栄一は祖父のことがあまり好きではありませんでした。祖父・只右衛門は顔にコブがあるので「コブじいさん」と呼ばれていましたが、そのコブだけならまだよくて、コブじいさんは高齢だったこともあり、ボケが入っていて、そのボケたコブじいさんと一緒にいるのが嫌でした。

みなさんも、当時14歳の栄一少年になりきってみてください。おそらく「ボケたじいさんと一緒に行きたくない!」と言うと思います。「老人を愚弄する気か!差別する気か!」と思った人は、14歳の栄一少年になりきっていません。14歳で反抗期真っ盛りの少年です。思い出しましたか?その気持ちを忘れないで下さい。

さて、とりあえず我慢して、祖父について藍葉の買い入れに行った栄一ですが、どうもボケたじいさんと一緒に仕事をするのはいい気分がしません。そこで、何とか祖父を出し抜いて、自分だけで藍葉の買い入れに行こうと画策します。

栄一「おじいさん、私は一人で向こうの村に行ってみようと思います。」

祖父「お前ひとりでいってどうする。何にも出来ないだろう。わしも一緒に行くからちょっと待ちなさい。」

栄一「私では何も出来ません。ですが、見て回るくらいは出来ます。」

祖父「じゃあいいか、何かあった時のために、ほれ」(お金)

という具合に、栄一は祖父を出し抜いて、一人で藍葉の買い入れに行きました。

栄一は父が藍葉の買い入れに行った時に何度もついて行って、藍葉の良し悪しは熟知しています。とは言え、まだ14歳の子供が「藍葉の買い入れに来ました」と言っても、「おつかいかな?」としか思われません。適当にあしらわれて追い返されるならまだしも、悪い藍葉を高値で掴まされたら目も当てられません。そこで、栄一は、いつもの父の真似をします。落ち着き払った医者が病人を診察する様な素振りでこんなことを言います。

「この葉はまだ十分に乾燥していない」

「こっちの葉は良い肥料を与えられて育っていない」

「肥料に魚粕を使っていない葉だね」

「この下葉は枯れているじゃないか」

「これは茎の切り方がよろしくない」

という具合に、バッサリと言ってみせました。14歳の子供が生意気に言うもんですから、大人としては「ぐぬぬ」とならざるを得ません。しかし、栄一の指摘は正しく、大人たちは認めるしかなかったのです。

次々と医者の真似をしながら藍葉を真剣に見て、良し悪しを言うものですから、最初は栄一をバカにしていた大人たちは「面白い子供が来たもんだ」と感心します。そんな調子で何件もまわり、藍葉の買い入れデビュー初日に、20軒以上の農家から良い藍葉を安く買い入れて来ました。

そして、翌日も藍葉の買い入れに一人で出かけようとする栄一に対して、祖父が「わしも一緒に行く」と言うのに対して「おじいさんは行かんでよろしい」と言って一人で買い入れにまわり、周辺の村々から、渋沢家で必要な藍葉をほとんど一人で買い入れました。後日、帰って来た父・美雅は栄一が藍葉を一人で買い入れたことに驚き、とても褒めました。

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編集後記

栄一が商人としての才能を遺憾なく発揮した出来事ですが、父の真似が出来る程の観察力と、父が藍葉を鑑定している様子が「医者の様だ」という抽象化出来た知識を幼少期に蓄えたことが大きいです。父が栄一を本当に褒めたのは、成果を上げただけでなく、考えて行動したことを褒めたのでしょう。

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参考資料

第1巻(DK010003k)本文|デジタル版『渋沢栄一伝記資料』|渋沢栄一|公益財団法人渋沢栄一記念財団

『父 渋沢栄一』(実業之日本社文庫)

『渋沢栄一』(人物叢書)

2021年放送の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一。当サイトでは、放送されるエピソードの他、放送されないエピソードも執筆しています!是非、大河ドラマと合わせてお楽しみください!