「既得権益」と聞くと、悪いもの、古いもの、ずるいものという印象を持つ人は多いかもしれません。
政治、行政、業界団体、大企業、資格制度、補助金、許認可などの話題では、「これは既得権益ではないか」「一部の人だけが得をしているのではないか」と批判されることがあります。
しかし、既得権益があること自体が、ただちに悪いわけではありません。
長年の投資、技術、信用、責任、公共性によって支えられている権益もあります。医療、交通、電力、通信、水道、資格制度などは、安全性や安定供給のために、一定の制度や規制が必要になることもあります。
問題は、その権益に社会が納得できるだけの正当性があるかどうかです。
この記事では、既得権益の意味、利権との違い、なぜ批判されやすいのか、そして正当な権益と不当な利権を見分ける考え方をわかりやすく解説します。
既得権益とは
既得権益とは、「すでに得ている権利や利益」のことです。読んで字のごとくですね。
辞書的には、国・地域・組織などが、法的根拠にもとづいて以前から獲得している権利と利益を指す言葉とされています。
もう少し広く考えると、既得権益というものは、
ある個人・企業・団体・業界が、過去から続く制度、許認可、地位、慣習、資源、インフラ、人脈などによって、他者より有利な立場を持ち続けている状態
だといえます。何かをきっかけに長く継続して利益を得ている状態ですね。
たとえば、次のようなものは既得権益と結びつきやすい要素です。
- 許認可
- 補助金
- 資格制度
- 業界団体
- 公共事業
- 公共インフラ
- 行政との関係
- 長年続く取引慣行
- 参入しにくい市場構造
ただし、ここで重要なのは、既得権益は必ずしも違法ではないという点です。
むしろ、多くの既得権益は合法的な制度や慣習の中に存在しています。だからこそ、単純に「法律違反かどうか」だけでは判断しにくくなります。
既得権益を考えるうえで重要なのは、その権益がどのように生まれ、どのように維持され、誰の利益になり、誰が負担しているのかを見ることです。
既得権益と利権の違い
既得権益と似た言葉に「利権」があります。
どちらも利益や権利に関わる言葉ですが、ニュアンスには少し違いがあります。
既得権益は、すでに得ている権利や利益を指します。長年の制度、慣習、投資、地位によって生まれた有利な立場です。
一方で、利権は、特定の立場や権限を利用して利益を得られる仕組みという意味で使われることが多い言葉です。特に、政治、行政、許認可、補助金、公共事業などと結びつくと、批判的な意味で使われやすくなります。
つまり…
- 既得権益:「すでにある権利や利益」に注目した言葉
- 利権:「権利や仕組みを使って利益を得る構造」
に注目した言葉だと整理できます。
また、経済学には「レントシーキング」という考え方があります。
これは、新しい価値を生み出すのではなく、制度や規制、政策などに働きかけて、自分たちに有利な利益を得ようとする行動を指します。
日本語の解説でも、政府や官庁に働きかけ、法律・政策・税制などを自分たちに有利に変えようとする行動として説明されています。
このレントシーキングの視点で見ると、問題は「利益を得ていること」そのものではありません。
問題は、本来なら競争や努力によって得るべき利益を、政治力、行政裁量、規制、補助金、許認可などによって守ろうとしていないか、という点です。
つまり、癒着が発生している、もしくは発生する可能性があることも含んでいるわけです。
既得権益が批判される理由
既得権益が批判されやすい理由は、「一部の人だけが得をしているように見える」からです。
ただし、もう少し丁寧に見ると、批判の理由はいくつかに分けられますが、大きくは4つに絞られます。
- 新規参入を妨げているように見える
- 利益は一部に集中し、負担は社会全体に広がっているように見える
- 政治や行政との関係が不透明に見える
- 制度が時代に合わなくなっても変わらないこと
ではそれぞれ見て行きましょう。
①新規参入を妨げているように見える
まず、「新規参入を妨げているように見える」ことで批判の対象になりやすいです。
資格、許認可、規制、業界慣習、排他的な契約などによって、新しい事業者や個人が入りにくい状態になると、既存の事業者だけが守られているように見えます。
ブルーオーシャンは資本と企業努力で参入の余地がありますが、そうではない、法規制や業界・産業の構造的に新規参入が不可能に近い場合は、批判の対象になりやすいです。
②利益は一部に集中し、負担は社会全体に広がっているように見える
つぎに、「利益は一部に集中し、負担は社会全体に広がっているように見える」ことです。
たとえば、特定の業界や団体が制度によって守られている一方で、そのコストを利用者、納税者、下請け、将来世代が負担しているように見えると、不公平感が強くなります。
負担に感じる母数が増えると、全体として不公平感が広まり、批判の対象となりやすいです。
③政治や行政との関係が不透明に見える
そして、「政治や行政との関係が不透明に見える」ことです。
補助金、許認可、審議会、天下り、業界団体との関係が見えにくいと、「一部の関係者だけで決めているのではないか」という疑念が生まれます。
④制度が時代に合わなくなっても変わらない
これは時と場合によりますが、「制度が時代に合わなくなっても変わらない」ことです。
最初は必要だった制度でも、社会環境や技術が変われば、見直しが必要になる場合があります。それにもかかわらず、時間の経過で見直しが必要であるにもかかわらず、既存の仕組みが維持され続けると、「制度の目的よりも、関係者の利益が優先されているのではないか」と見られやすくなります。
既得権益が正当化される場合
既得権益は、すべて悪いものではありません。そして、既得権益が批判されるのは、誰かが得をしているからだけではありません。
「なぜその人たちだけが得をしてよいのかを、社会に説明できない」ときに批判されやすくなるのです。
ある権益に社会的な正当性がある場合、それは単なる利権ではなく、必要な制度上の権利として受け入れられやすくなります。
たとえば、次のような場合です。
- 長年の投資がある
- 技術やノウハウを積み上げている
- 信用やブランドを築いている
- 安全や安定供給に責任を負っている
- 利用者に利益をもたらしている
- 利益だけでなくリスクも負っている
- 料金や条件が不当に高くない
- 新規参入の余地がある
- 制度や配分が透明である
鉄道、電力、水道、医療、航空、通信などの分野では、完全な自由競争だけでは安全性や安定供給を維持しにくい場合があります。
同じ地域に何本も線路(鉄道路線)を引くことは現実的ではありません。電力網や水道網のようなインフラも、誰でも簡単に複製できるものではありません。医療や航空のように、安全性が極めて重要な分野では、一定の資格(高度な専門性)や規制(厳格なルール)が必要になることもあります。
このような場合、既存の事業者や専門職が一定の地位を持つことには理由があります。
つまり、社会が納得する既得権益とは、単に「昔からある権利」ではなく、今現在も、
- 公共性
- 利用者利益
- 安全性
- 安定供給
に貢献している権益です。
批判すべきなのは、長く続く企業や団体そのものではありません。
問題は、その地位を使って競争を封じ、負担を他者に押しつけ、説明責任を果たさない状態です。
不当な利権と見なされる場合
一方で、既得権益が不当な利権と見なされる場合もあります。
それは、正当な努力や責任ではなく、制度、政治力、行政裁量、資本力、排他的契約などによって競争を封じ、自分たちの利益を守っているように見える場合です。
たとえば、次のような状態です。
- 政治や行政に働きかけて自分たちに有利な制度を作らせている
- 新規参入を意図的に妨げている
- 巨大資本で競合を排除し、その後に市場を支配している
- 独占的な契約で取引先や利用者を縛っている
- 利益は自分たちで取り、損失は税金や利用者に回している
- 成果が乏しくても補助金や制度で守られている
- 許認可、補助金、人事、契約の透明性が低い
- 公共性が建前に見える
このような構造では、たとえ法律上は問題がなくても、社会的には批判されやすくなります。
特に、利益を得る人と負担する人が大きくずれている場合、不満は強くなります。
一部の団体や企業が利益を得ている一方で、利用者、納税者、下請け、将来世代がコストを負担しているように見えると、「それは正当な権益なのか」という疑問が生まれます。
不当な利権が批判されるのは、誰かが得をしているからだけではありません。
その利益を得る理由を、社会に説明できないからです。
合法でも社会的に批判される理由
既得権益や利権を考えるうえで、合法性と正当性は分けて考える必要があります。
法律上は問題がなくても、社会的には批判されることがあります。
たとえば、
- 契約上は合法でも、取引先を過度に縛っている
- 補助金制度としては合法でも、成果が乏しいまま続いている
- 許認可制度としては合法でも、新規参入を過度に妨げている
というような場合、問題は「違法かどうか」だけでは判断できません。
社会が見ているのは、法律だけではなく、公平性、必要性、説明可能性、責任の所在、負担と利益のバランス、透明性、参入可能性です。
また、規制を監督する側が、いつの間にか規制される業界側の利益に寄ってしまう現象は「規制の虜」や「レギュラトリー・キャプチャー」と呼ばれます。これは、規制機関が本来守るべき公共の利益よりも、特定の業界や集団の利益を優先してしまう状態として説明されます。
この視点は、既得権益を考えるうえで重要です。
なぜなら、制度や規制は本来、社会全体の利益のために存在するものだからです。それがいつの間にか、特定の業界や団体の利益を守る装置になっているなら、正当性は揺らぎます。
合法であることは重要です。しかし、合法であることと、社会的に納得されることは同じではなく、別物と考えるべきでしょう。
既得権益を判断するためのチェックリスト
既得権益を考えるときは、「良い」「悪い」とすぐに決めつけるのではなく、いくつかの観点から見ることが大切です。
以下のような観点で見ると、既得権益を単純な善悪ではなく、正当性の問題として考えやすくなります。
発生の正当性
その権益は、努力、投資、信用、技術、責任によって得たものなのか。
それとも、制度、政治力、行政裁量、抜け穴によって得たものなのか。
維持の正当性
その地位は、競争の結果として維持されているのか。
それとも、競争相手を排除することで維持されているのか。
公共性
安全、安定供給、災害対応、地域維持、品質保証などの正当な理由があるか。
参入可能性
新規事業者や新しい個人が、現実的に参入できる余地はあるか。
利用者の選択肢
利用者は、他の事業者、サービス、手段を選べるか。
負担の公平性
利益は一部に集中し、負担だけが利用者、納税者、下請け、将来世代に分散していないか。
失敗時の責任
損失や失敗の責任を、自社や団体が負っているか。
それとも、税金、補助金、利用者料金、下請けに回しているか。
透明性
許認可、補助金、資源配分、人事、契約、審議会、基準が透明か。
行政との距離
所管官庁、業界団体、審議会、OB人事、補助金、規制が固定化していないか。
成果検証
政策目的や公共目的に対して、実際の成果があるか。
成果が乏しいのに、制度や組織だけが残っていないか。
まとめ:既得権益は正当性で判断する
既得権益は、社会のどこにでも存在します。
長年の投資、技術、信用、責任、公共性によって支えられている権益もあります。そのため、既得権益があること自体を悪と決めつけるべきではありません。
一方で、その権益が制度、政治力、行政裁量、資本力によって守られ、競争を封じ、負担を利用者、納税者、下請け、将来世代に押しつけている場合、それは不当な利権として批判されやすくなります。
重要なのは、誰かが得をしていること自体ではなく、「なぜその人たちだけが得をしてよいのか」を、社会に説明できるかどうかです。
正当な権益と不当な利権を分ける中心軸は、ここにあります。
既得権益を考えるときは、感情的に批判するのではなく、公共性、公平性、透明性、参入可能性、責任の所在を確認することが大切です。
その権益は、社会に説明できる正当性を持っているのか。
この問いを持つことで、既得権益や利権の問題を、より冷静に読み解くことができます。
